うらんたん文庫【JR東福間駅から徒歩圏内】ご店主とご家族の蔵書を集めたアートを感じる私設図書館
JR東福間駅を南口から出て、博多の方角へ。小高い丘を造成してつくられたとみられる新興住宅地が続くが、一本内側に入ると昔ながらの建物がひょこひょこと顔を出す。
新しい家々と古い建物のギャップに「あれ、急に時代が変わったか?」と、ちょっとしたタイムスリップを感じたところで、小道の脇にこんな看板が見えたら「うらんたん文庫」はもうすぐだ。
ワンオーダーでゆっくりと本を楽しめる
うらんたん文庫は、ご店主とそのご家族の蔵書を、納屋を改装した建物に集めて一般公開した私設図書館およびブックカフェである。
宣伝活動はそれほどやっていません。口コミなどで見つけてくださった方が、訪れてくれたらいいな、と思っています。
との、ご店主の言葉に、掲載は諦めようかとも思ったが、ご好意で「掲載してもいいですよ」と言っていただけた。本当にありがとうございます。
うらんたん文庫では、ワンオーダーすることで好きな本を手に取りゆっくりとした時間を過ごすことができる。飲み物はコーヒー、紅茶、ココア、ジュースなど200円から。小腹が減っていればおいしいおやつもいただける。
200円で素敵な空間と本をじっくり楽しめるというのは、よくよく考えると大変すごいこと。カフェ好きの本読みには、たまらない場所である。
本は店内でのみ読むことが可能で、貸し出しのシステムはいまのところないとのことだ。
飲み物を片手に本が読める「ブックカフェ」と個人の蔵書を一般公開した「私設図書館」の間のようなところなのだが、私は「私設図書館」という言葉の方がよりしっくりきた。これらの言葉の定義は曖昧なものなので、どちらでも好きな方で言えばいいのかもしれないが、あくまでも「静かに本を読む、見る、店内を楽しむ」がメインに据えられた場所。喫茶店感覚でワイワイしたい場合は別の店をあたったほうがよいかもしれない。本のことを熱く語りたいという方は、うらんたん文庫で定期的に開催される読書会イベント「わたしの読書」に参加してみてはいかがだろうか。読書会イベント時であれば、本の話がたっぷりできるはずだ。
駐車場は日曜は先着4台、平日は完全予約制で2台。いずれにせよ事前に電話で確認した方が良さそうだ。到着してから駐車場が空いてなくて、「まいったなぁ…」ということにならないように、少し注意しておこう。
本とアートに触れる場所
店内を見ていると、いたるところに絵やアート作品が飾ってあることに気づく。
なかでも、圧巻だったのがこちらの大きなアート作品。
こちらは画家で絵本作家でもある中野真典さんの作品。北九州のOperation Tableで3/15(2020年)まで行われた「くちぶえサーカス」にて中野さんがライブペインティングで描いたもの。そんな「世界に一つしかない作品」がなぜここに?と思う方もいるかもしれないが、そこはきっとご店主のお人柄のよさとご人脈の広さによるところなのだろう。うらんたん文庫で展示するのなら・・という事で特別に貸与して頂いたとのことだ。期間限定なので機会があれば是非、足を運んでみてほしい。
作品の展示以外にも、画集や写真集の品揃えが豊富なので、アートに触れたい方、何か創作活動をされている方にとっては、オアシスにも、学び舎にもなりうると思う。
未知なる出会いに期待がふくらむ本棚
1階奥のスペースには文芸書、児童書、社会、歴史、地理などの本が所狭しと並ぶ。
店内全体に言えることだが、本の並びについてはジャンルごとに大まかな分類はあっても、100%きっちりと区分けされているわけではないので、本棚の文脈を読むのもまた面白かったりする。意外な本との出会いがあるかもしれないので、是非じっくりと本棚の旅を楽しんでほしい。
二階へいくと、キッズスペースとともに沢山の絵本、児童書。
みんふるやのスタッフで世間話をしていたときに、「うらんたん文庫に近所の子どもたちがやってきて好きに本を読んだりしている姿がすごくいい」という話を聞いた。子どもは、どこかにおもしろい居場所がないか、いつも探しているように思う。もし子ども時代に家の近くにこんな場所があったら…。考えただけでワクワクしてくる。大人も本質は変わらないのかも。
地元音楽シーンとのつながり
先ほど、店内にアート作品がたくさん展示されているという話を書いたが、
今年はあまりできていないですが、昨年(2019年)は毎月のように音楽イベントをやりました
とのご店主の言葉通り、アート作品に負けず劣らず、多くの音楽関係のフライヤーが店内に置かれている。そもそもライブやイベントのフライヤー自体がアート性が高いものが多いので、これらもまた展示されたアート作品の一部なのかもしれない。
お会計スペースの手前には、イベントでうらんたん文庫を訪れたミュージシャンのCDやレコードが置かれて販売されている。SKA☆ROCKETSと、とんちピクルスのスプリット盤、名曲「夢の中でないた」の7インチも置いてあった。舞い上がっていて買いそびれてしまったので次回こそは買いたい。地元音楽シーンのファンなら、「あ、欲しい」と思うものがきっとあると思う。
購入が可能といえば、入口から入ってすぐのテーブル上に、ご店主のセレクトで購入可能な本があるので、そちらも注目してみて欲しい。
駅までの近道
帰り際、ご店主から駅までの近道を教えていただいた。うらんたん文庫を出て左手のちょっとした林道を抜けると、駅まですぐ。
自然に包まれて気持ちがやすらぐ。うらんたん文庫へは電車と徒歩でいくのが吉だ。
うらんたん文庫
JR東福間駅から徒歩圏内
開館時間:12:00〜18:00
金・土曜・祝日定休
なまことかえるライブラリー【福津市津屋崎】静かな時間の流れを感じる不思議な本屋
本屋さん紹介の1本目は古賀市のお隣、福津市津屋崎にある「なまことかえるライブラリー」です。(以下、親しみを込めて店名を「なまこ」と書かせていただいている部分もありますが、ご了承ください。)
っとその前に、なまことかえるライブラリーを訪れた経緯からお話ししたいと思います。
私が、「古賀市にみんなで古本屋をつくろう」プロジェクト(みんふるやプロジェクト:当サイトの運営団体)をやりたい!と発信したのは2019年夏のことです。仕事が夏休みに入るぞというワクワクがとまらない日に、勢いそのままに帰宅中の電車内で、興奮と緊張で震える手を懸命に押さえつけながらTwitterアカウントを開設しました。
自分が本屋として普通に開業するのではなく、みんなで協力して古本屋をつくりたい。そんなことを思いついたものの、どうして良いのかわからず藁にもすがる思いでの発信でした。
それから数日間。ありがたいことに面白そうだと言ってくださる方々からぽつぽつとご連絡をいただきました。
そして、それら連絡の中の一つに、「隣町である福津市の津屋崎に『なまことかえるライブラリー』という素敵な本屋がある」との気になる情報があったのです。それが私となまこの出会い。ネットで情報を調べてすぐに行ってみようと決めました。
なまことかえるライブラリーへ
伺ったのは2019年の夏なので、写真が古くなってしまいましたが、そこはご容赦ください。それでは伺った時の話をどうぞ。
不思議な本屋だ。入ってすぐにそう思った。いや入る前から不思議だった。一見すると古い民家なので、まずどこから入っていいのか若干戸惑う。そして恐る恐る玄関を開けて入るも、人影がない。
その日、ネットの情報では営業日とあったし、門には小さな看板が出ていたし、多分大丈夫だろうと自分に言い聞かせて、店内へ。
中は綺麗に改修された古民家。その端々のスペースに本棚がしつらえてある。
時は自分のためだけに流れているのだと錯覚するほどに、静か。
そんな折、窓の外に庭仕事をする女性の人影を見てはっとした。我に返り、来店しましたということで声をかけさせていただく。
素敵な本屋ですね、なんて他愛もない話から始まり、自分の思っている古本屋の構想まで親身になって話を聞いてもらった。
ご店主(なまこでは館長というそうだ)はご不在とのことだったので、ゆっくり本を見ていきますと伝え、しばし本棚を物色することに。
先ほど、不思議な本屋だ、と書いたが、なまこは仕組みも不思議なところがある。
もちろん、本屋なので本が買える。新刊、古本両方ある。ここまではまあ普通なのだが、実はなまこでは本を借りることもできるのだ。本を売らなきゃ、という焦りのようなものがほとんど感じられず、店全体に不思議でゆったりとした雰囲気が漂う所以は、ここにあるのではないかと思う。
そもそも「かえるライブラリー」とは、どうも「買えるライブラリー」ということらしい。ライブラリーはもちろん図書館なので、本が買えるし、借りれもしますよってこと。ネーミングもいい。
ただ、置いてある本をなんでもかんでも借りられるのかというとそうではなく、貸出専用の本と、販売用の本とに区分けがなされている。そのへんは少しだけややこしかったりもするが、詳しくはお店で聞いてみてほしい。
本を物色していると館長さんが戻られたので、詳しい話をまた聞かせていただいた。
そして、話を聞けば聞くほど、面白い、珍しい本屋だという考えに拍車がかかった。
例えば
会員になって自分の蔵書をなまこに置く
↓
その本を読みたいという別の会員さんが借りていく
↓
本の感想をノートに書いて想いを共有する
というような仕組みを作っていたりする。
館長さんは、
本で商売をするというよりも、本を通して人が集まってきて、この場所をつかってもらうことのほうが大事なんです
とおっしゃっていた。
自分がみんふるやを立ち上げたきっかけは、使われなくなってしまった建物や部屋に、街の人の不要になった本を集めて詰め込んだら、それだけで本のある場所、みんなの集まれる場所が無理なくできるんじゃないか、という着想から。館長さんの言葉にはとても共感できるところがあった。
しかし、言うは易し、とはよく言ったもので、実際にみんふるやを始めてみて、やろうとしていることの難しさを感じている今、2年もの時間をかけてなまことかえるライブラリーをつくりあげた地元有志の方々のご尽力には本当に頭が上がらない。
館長さんは
本業の不動産業で、この場所を所有しているがために、本の売上をそこまで重要視しない運用が可能なんです
とも。
最近、個人で本屋を開業する人たちは、このように副業でされている方が多いという話も聞く。本の売上だけで食べていくのはそれだけ難しいということだ。とにもかくにも、本屋が少なくなったこの世の中で、本業であれ副業であれ本屋というものを実現させている方々の努力には並々ならぬものがあると感じる。そして、そのどちらにもそれぞれのよさがある。
自分たちのプロジェクトに目を向けると、現在、古本屋を実現させるための場所がないという状況。さて、どうやって古本屋を実現させるのか。難しいことだけど、楽しみながら乗り越えていきたい。
古賀市と福津市は目と鼻の先で兄弟のようなものだ。もしも私が、みんふるやを始める前になまことかえるライブラリーを知っていたら、もしかしたら、みんなで古本屋をつくろうなんてことは思わなかったかもしれない。なんせ素敵すぎる。そして近い。
何も知らなかったからこそ発信できた。無知とは時に武器にもなるのだ。そんなことを思った夏の日だった。
なまことかえるライブラリー
福岡県福津市津屋崎1丁目27ー32
営業日:木、金、土
営業時間:10:00〜17:00